2018年05月31日 所長・スタッフブログ

 役員退職金とは、役員がその法人を退職したことにより一時に受ける給与で、役員としての在任期間中における継続的な職務執行に対する対価の一部の後払いとしての性質を有するものと規定されています。退職金にかかる税金については、長年の功労に報いるために、退職所得控除や2分の1課税、他の所得と分離して課税することにより、他の所得に比べて税負担が軽くなるように配慮されています。(勤続期間が5年以下の役員に対する退職金については、2分の1課税の適用はありません。)さらに退職金からは社会保険料も控除されませんので、額面金額に対する手取額は、給与に比べて高くなります。 

 しかし法人税法上は、無制限に損金の額に算入することはできません。平成29年度改正により、役員給与の損金算入要件が大きく見直され、退職給与については、下記の通り区分されます。

 ①業績連動給与に該当する退職給与(※1)

 業績連動給与の損金算入要件(※2)を満たさないものは損金不算入 

(※1)利益の状況を示す指標などを基礎として算定され、役務の提供期間以外の事由によりその支給額が変動するものをいいます。 

(※2)※1の算定方法が適正に開示され、かつ損金経理を行った上で、一定の期日までに金銭等が交付されることなど。 

なお、業績連動給与については、基本的には同族会社では採用できません。 

詳細は下記リンクより国税庁HPでご確認ください。

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/11/19.htm

 ②業績連動給与に該当しない退職給与(功績倍率に基づき算定される退職給与など)

 不相当に高額な部分の金額は損金不算入

 

 では、不相当に高額な部分の金額とは、どのように計算されるのでしょうか?

 法人税法施行令70条二では、当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人(同業類似法人)で、その事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額を不相当に高額な部分の金額としています。 

 同業類似法人との比較方法としては、主に下記の方法が採用されています。

 ①功績倍率法

 退職時の役員報酬月額×勤続年数×功績倍率により計算する方法です。

 裁判例を見ますと、功績倍率については、同業類似法人の功績倍率の平均値を用いることが多いです。同業類似法人の功績倍率の最高値を用いたこともありますが、どちらかというとレアケースです。また、退職直前だけ役員報酬を高く設定した場合も問題になります。

 ②1年当たり平均額法

 類似法人の退職給与の1年当たりの平均額×在任年数

 正当な理由により、退職時の役員報酬月額が低額となっている場合には、功績倍率法により計算すると、適正な退職給与が低く算出されることになります。

 このような場合には、類似法人の退職金支給額を、その類似法人の役員の在任年数で除して、1年あたりの退職給与の平均額を算出し、当該役員の在任年数を乗じて計算することで、合理的な金額を算出することができます。

  いずれの方法も同業類似法人の抽出、抽出した同業類似法人の支給基準などを把握しなければ、退職給与として相当である金額を算出することはできません。民間のデータベースから抽出することは可能ですが、課税庁の所持している情報と差異がある場合、その差額について過大と認定されてしまう可能性があります。 

 同業類似法人の功績倍率についても、例えばA社5倍、B社4倍、C社3倍、D社2倍、E社1倍だった場合、A社から見た同業類似法人であるB,C,D,E社の平均値は2.5倍ですが、E社から見た同業類似法人であるA,B,C,D社の平均値は3.5倍になります。バラツキが大きい場合は、最高値を用いたり、異常値を排除して計算することになりますが、課税庁が望むような適正な功績倍率を支給時期までに算定することはかなり困難です。 

 役員退職給与は高額になることが多いので、課税庁としても目を光らせる項目であることは理解できます。しかし、納税者側から見た場合、正しく計算したつもりであっても、税務調査の対象期間を経過するまでは、課税庁側が後付けで否認する材料を持っているかもしれないという状況が続きますので、あまり気持ちのいいものではありません。

  個人的には、役員給与は結果に対する報酬であるべきと考えます。例えば30年会社経営をして10億円留保があるのであれば、同業類似法人がどうであれ、10億円から株主への配当金を考慮した後の残額が適正な退職給与であるべきです。

  とはいえ、残念ながら私の思いの通りに改正が行われることは考えにくいところです。しかし、不相当に高額な部分があったとしても、退職という事実に基づいて支給されたものであれば、受給者は全額退職所得として受け取ることができます。

 法人が損金算入できる上限額から支給額を計算するのではなく、同業類似法人に比べて高額であることを把握した上で、その役員のその会社での成果に応じて支給額を決めてもいいのではないでしょうか?こういった会社が増えていけば、同業類似法人の功績倍率も上がってくるという期待もあります。

 

 役員退職金の裁判例はいろいろと興味を惹かれるものが多いです。今後もどのような判例が出てくるか注目していきたいと思います。

 

和知 秀永

 

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